Pantera
開発コード「ティーポ874」ことパンテーラは、デ・トマソのシャシーにフォードのエンジンを搭載する混血のスーパーカーとして誕生。
「リンカーン・マーキュリー部門に高性能なスポーツカーを追加する」というイタリア系アメリカ人、リー・アイアコッカの意向で
フォードからオファーがあり、1969年9月に契約。1970年1月にプロトタイプが完成し、3月にイタリア・モデナで発表された後、
翌4月にニューヨーク・モーターショーに出品された。デ・トマソは、イタリア・モデナのエミリア通りに新工場を建設。
まずはヨーロッパ向けをメインに、1970年10月から生産が始まった。

「年間販売台数5000台以上」というスーパーカーとしては史上初の大規模プロジェクトであり、シャシー設計はランボルギーニから引き抜かれた
ジャン・パオロ・ダラーラが担当。シャシーは先代のマングスタではバックボーンフレームだったが、パンテーラは鋼板を溶接で組み上げた
フレームビルトインタイプのセミモノコックを採用。他のイタリアンスーパーカーはスペースフレームが多いのに対し、かなり先進的な構造だが、
1万ドル以下という販売価格のためのコスト削減、大量生産、衝突安全性をかなえるものであり、それはフォードの強い要望であった。
モノコックに被せられるボディパネルはスチール製で、リアフェンダーなどに応力を持たせた設計となっている。

ミッドに縦置きされる水冷V型8気筒OHVエンジンは、マングスタでは5リットルだったが、5.8リットルに拡大された。
スモールブロックのこのエンジンは、フォード・マスタングやマーキュリー・クーガーの高性能モデルに搭載するために開発されたもの。
オハイオ州クリーブランドに生産工場があることから、通称「クリーブランド」と呼ばれる。このクリーブランドには、
351、390、428、429のラインアップがあり、パンテーラは351を搭載。潤滑方式はウェットサンプで、
燃料供給装置はホーリー製の4バレルキャブレター。最高出力310PS/5400rpm、最大トルク52.5/3500rpmを発揮し、最高速度は265km/h。
なお、ヨーロッパ向けに水冷V型6気筒エンジンも検討された。英国フォードの3リットルを積んだパンテーラ290、
ドイツ・フォードの2.7リットルを積んだパンテーラ270だが、プロトタイプのみで生産化はされなかった。
組み合わされるミッションは、マングスタと同じZF社製の5速MTだが、ロードクリアランスを確保するために、上下逆に搭載されている。
重心をできるだけ車体の中心にするため、パワーユニットは室内に食い込むまで前方にマウントされている。その結果、前後の重量配分は
42:58になっている。サスペンションは、前後ともセッティングの自由度が高いダブルウィッシュボーンで、不等長Aアームを上下に並べたもの
スタビライザーも採用されている。ブレーキはソリッドの4輪ディスクを採用。ホイールはカンパニョーロ製、マングスタと共通の
フロント7J×15、リア8J×15。タイヤは、82扁平から70扁平になり、フロントはマングスタと同じ185だが、リアは235から215に変更された。

エクステリア・デザインは、当時デ・トマソ傘下だったギアにオーダー。チーフ・デザイナーのジウジアーロが独立していたため、
後任となったアメリカ人のトム・チャーダが担当。プレス加工の大量生産を前提に、複雑なラインは避け、モノコックのボディ構造により
開口部を小さくするなど制約を受けたが、オールスチール製のボディは美しくまとまっている。フロントグリルにあるエンブレムは、
創始者アレッサンドロ・デ・トマソの妻、イザベルのイニシャルを取ったもの。フロントフードには、スペアタイヤのほか、
前後の重量配分を考慮してバッテリーも収められている。ヘッドライトは丸型の左右2灯式。リアフード内は、エンジンとトランスミッションのみ。
余計なものは一切なく、シャシーに強固にマウントされている。通常は、エンジンの上にFRP製のラゲッジトレイが被せられている。
簡単に取り外すことができるので、メンテもしやすい。エキゾーストは左右4本出しがオリジナル。ボディパネルは傘下に収めた
ビニャーレで製作され、フォード製エンジンとともに、デ・トマソの工場で最終アッセンブリーが行われた。

インテリアは、機能的なつくりで、メーター/スイッチ類はシンプルにまとまっている。当初、ダッシュボードは、スピードメーターとタコメーターが
角型のナセルでそれぞれ独立し、助手席側がえぐれていたが、Lの登場とともに、スピードメーターとタコメーターがひとつのナセルにまとまり、
助手席もフラットなデザインに変更された。インパネには、大径のスピードメーターとタコメーターが並び、その左には、ウ
インドウウォッシャー、ワイパー、ハザードのスイッチが配置されている。右側にはエアコンの吹き出し口がレイアウトされる。
センターコンソールには、上から電圧計、燃料計、水温計、油圧計が並んでいる。その左側には、ヘッドライト、ファン、パワーウインドウ、
パーキングライトなどのスイッチが備わる。右側にはエアコンのスイッチと、縦置きされたオーディオが配置される。
シートは、スライドのみ可能で、リクライニングはできない。エアコンとパワーウインドウは、標準で装備された。

1970年10月から生産がはじまったが、電気系や冷却系に加え、サスペンションの剛性不足やブレーキ性能の強化など、
クオリティとパフォーマンスを向上させるため、1971年の終わりから大幅な改良が加えられた。
ダッシュボードはスピードメーターとタコメーターが角型のナセルでそれぞれ独立し、助手席側がえぐれていたが、
1972年にLが登場した際に、スピードメーターとタコメーターがひとつのナセルにまとまり、
助手席もフラットなデザインに変更された。あわせて、給油口をリアクォーターへ移動するなど、マイナーチェンジを受けた。

アメリカではフォードのリンカーン・マーキュリーのディーラー網を使い、9000ドルという価格で販売が開始された。
1971年には1008台、1972年には1975台が生産された。計画台数4000台には及ばないものの、当時の状況を考えれば上出来といえた。
デ・トマソは1973年の春に、パンテーラの生産とすべての権利をフォードに売却。しかし、オイルショックにより情勢は大きく変化。
フォードはパンテーラの年間生産台数を3000台と予定していたが、1974年の生産台数はわずかに572台にとどまった。
フォードは、1975年にパンテーラの販売を中止。それを受けて、デ・トマソはパンテーラの生産と
すべての権利をフォードから買い戻し、独自に生産/販売を続けることになった。

1971年のデビュー以来、四半世紀の間に何度かモディファイを受け、1990年までに7298台が生産された。
1990年、デ・トマソ本社で開催された創立40周年のイベントで次期パンテーラのコンセプト・モデルが発表されたが、
2003年に創始者のアレッサンドロ氏が亡くなり、2004年に会社も清算されてしまった。


Pantera L
デビューから2年後の1972年に、北米のリクエストに応え、ラグジュアリーモデルとしてパンテーラLが追加された。
Lは、イタリア語で「豪華」を意味するLussoの頭文字。エンジンは変更なく水冷V型8気筒OHVのままだが、圧縮比が10.5から8.6に低下され、
44PSダウンした266PSとなっている。また、装備の関係で、重量も若干アップしている。外観は素のパンテーラと替わらないが、
ウインドウのモールがシルバーメッキになっているなど、わずかな変更点がある(とはいえ、レストア時にこだわらなければ、
どちらか見分けがつかない)。北米仕様は、安全対策のために大型の5マイルバンパーが装着される。他のスーパーカーのように
それほど違和感はないが、カラスのくちばしのようなこのバンパーは不評であり、シンプルな欧州仕様に変更しているオーナーも少なくない。
1972年の終わりには、インテリアの一部やフューエルキャップをリアクォーターパネルへ移動するなど、マイナーチェンジを受けた。
1973年にはこのLも欧州で販売されるようになるが、北米仕様とは異なり、V型8気筒300PSの強力なパワーユニットが搭載された。



Pantera GTS
1973年のジュネーブ・ショーで登場した、ハイパフォーマンスモデル。エンジンは北米向けはLと同じだが、
ヨーロッパ向けは圧縮比を下げ、キャブレターもホーリー製に変更。最高出力を350PSにアップするとともに、ギアレシオも見直された。
外観では、ボンネット、エンジンフード、ボディの下半分がマットブラックのツートーン仕上げとなったのが特徴。
また、フロント8J/リア10Jのワイド&ロープロファイルのタイヤとホイールは、オーバーフェンダーとセットでオプションとして用意された。
ワイルドなこのスタイルに憧れ、パンテーラやパンテーラLからGTS仕様にしている個体も少なくない。
このGTSが登場してしばらく後に、北米仕様に安全性向上のための5マイルバンパーが標準装備されるようになった。
他のスーパーカーのようにそれほど違和感はないが、カラスのくちばしのようなこのバンパーは不評であり、
シンプルな欧州仕様に変更しているオーナーも少なくない。スーパーカーブームの頃、ブラックのボディに
ゴールドのピンストライプ、フロントスポイラー、リヤウイングで武装した、GTSスペシャルというモデルも存在した。



Pantera GT4
デ・トマソは、GTSをベースにレースカーを製作。1973年に作られたグループ3仕様のGr.3は、最高出力を380PSまでアップ。
しかし、これは市販車の高性能版という感じだった。同時に開発されたGr.4は、5.7リットルに拡大され、最高出力500PS。
シャシー、サスペンション、ブレーキは強化された専用のもので、前後のフードとドアはアルミ製。
フロント10J&リヤ13Jの幅広タイヤとホイールを収めるために、リベット留めのFRP製オーバーフェンダーが装着されていた。
文字通りのモンスターマシンであり、有名なクレイ・レガッツォーニをワークスドライバーに迎え、いくつかのレースに出場。
ル・マン24時間レースにも1972年から数年にわたって参戦したが、残念ながらそれほどの成績は残せなかった。
デ・トマソでは、このグループ4仕様のスタイルのままをオンロードモデルにしたGT4を、6台だけ製作した。
1975年に、最高速度292km/を記録したという。日本にもスーパーカーブーム当時に上陸し、現在も国内の某所に存在する。
グループ5仕様でシルエットフォーミュラークラスにも参戦したが、1979年を最後にその活動は中止された。



Pantera GT5
オイルショックの影響でフォードがパンテーラの販売から撤退した以降、デ・トマソは自社で細々と生産を続けていたが、
テコ入れのため1980年に大幅なモディファイを実施。FRP製でワイドなオーバーフェンダー一体型のフロントスポイラー、
FRP製デルタ型の大型リヤウイングなど、GT4に勝るとも劣らないマッチョでワイルドな雰囲気に仕上がった。
スパルタンなイメージ漂うスタイリングとは裏腹に水冷V型8気筒エンジンは330PSと、よりマイルドで扱いやすいようデチューンされた。
インテリアはGTSなどとは異なり、スピードメーターとタコメーターがそれぞれ独立したデザインとなっている。
このワルそうなスタイリングに魅了され、GT5仕様へとモディファイしているオーナーもかなりの数に上る。
オリジナルの他、有名なパンテーラ・チューナーのホールをはじめ、さまざまなパーツが出ているので、GT5仕様にしやすい。
ちなみに、識別点としては、本物のGT5はボディとオーバーフェンダーの間にゴムがかませてある。



Pantera GT5S
GT5Sは、1984年のトリノ・ショーで登場した。前後フェンダーがスチール製のブリスター風になり、フロントスポイラーもよりボディと一体化し、
ワイドでありながらもスマートなアピアランスへと修正された。さらに、リヤフェンダーには、ブレーキ冷却用のエアインテークが新設されるなど、
GT5のマイナーチェンジではあるが、かなり印象が異なる。搭載されるエンジンは水冷V型8気筒のまま変更はないが、
標準の300PSから350PSまでチョイスすることができた。なお、途中でクリーブランド工場でのエンジンが生産中止となったため、
オーストラリアのウインザー工場で生産されたエンジンに変更された。サスペンションの設定が見直されたほか、
前後のブレーキがベンチレーテッド・ディスクに変更された。インテリアも、インパネのデザイン変更、ギャザー付きの革張りにウッドパネル、
上質なカーペットなどが採用された。当時ディーラーだったガレージ伊太利亜によって9台が正規輸入されたが、パンテーラの中でも希少なモデルだ。
なお、契約の関係でカナダにあるマーキュリー社で委託生産された北米仕様車もある。この車両は、リヤウイングの両端が下がっているほか、
リヤクォーターにあるエアダクトも独自デザインのものになっているのが特徴。このGT5Sの登場により、LとGT5は生産中止になった。



Nuova Pantera
「ヌオーバ(新世代)」と名付けられたこのモデルは、デ・トマソ創立30周年を記念して、1990年のトリノ・ショーで発表された。
エクステリア・デザインは、ミウラやカウンタックを手掛けた鬼才マルチェロ・ガンディーニが担当。
バンパーを組み込んだフロントノーズは、サイドをはじめ、デザインが複雑でかなり空力を意識している。中央のダクトから取り込んだエアは、
ラジエーターを冷却し、ボンネットのダクトから排出される。正方形のドライビングランプの隣には、ブレーキ冷却用のダクトが設けられ、
ウインカーは綺麗にボディに埋め込まれている。フロントウインドウ前部に設けられたパーツは、ウイングで断面もきちんと翼の形になっている。
ウインドウに当たる空気を整流するとともに、ワイパーの効率をアップするのが目的。ドアミラーはボディにマッチしたデザインで、
サイドスカートはブリスターフェンダーとあわせてボディ一体式。リアフェンダー前のダクトは、右側はエンジンルーム、
左側はオイルクーラーの冷却用。リアウイングは、F40を意識した2分割デザインになっている。テールランプは変更され、
リアのバンパーも大型化され、ボディ一体式となるなど、ルーフ以外がリニューアルされ、斬新なスタイルに仕上がっている。
ボディはこれまでのスチールから、軽量なアルミ製に変更された。シャシーにも大幅な改良が加えられ、楕円スチールチューブにより
リアサブフレームを新設計。サスペンションも大幅に見直しが行われた。フロントはトレッドを拡大、リアはロワアームが延長された、
コーナリング時の安定性が向上した。ブレーキは前後ともベンチレーテッド・ディスクだが、より強力なブレンボ製のキャリパーに変更された。
ホイールもこれまでの15インチから17インチに拡大された。タイヤはフロントが235/45ZR17、リアが335/35ZR17で、ミシュラン社製のMXXを履く。
さらに、年間1000台というプランに対応するため、オーストラリアのウインザー工場で生産されたマスタング用の水冷V型8気筒OHVエンジンを選択。
5リットルに拡大されただけではなく、インジェクションになった。最高出力はヨーロッパ仕様305PSで、北米仕様で247PSとなっている。
ラジエーターはフロントへ移された。インテリアもリニューアルされ、ウォールナットなどマセラティとの共用パーツが使われているほか、
本革シートもバケットタイプの新デザインとなり、ラグジュアリーな印象に改められている。
L、GTS、GT5Sは、このノーバの登場により、1990年モデルで生産中止になった。このヌオーバは1994年まで生産されたが、
GT5S同様、見かける機会は稀だ。また、パンテーラ唯一のタルガもバリエーションとして存在する。



■Specification
Pantera Pantera L Pantera GTS Pantera GT5 Pantera GT5S Nuova Pantera
発表年 1970 1972 1973 1980 1985 1990
生産年 1970〜 1972〜1985 1973〜1990 1980〜1985 1985〜1990 1990〜1994
生産台数
シャシー セミモノコック
全長×全幅×全高(mm) 4270×1830×1100 4270×1830×1100 4270×1830×1100 4270×1830×1100 4270×1830×1100 4365×1930×1100
ホールベース(mm) 2515 2515 2515 2515 2515 2512
トレッド前後(mm) 1450/1460 1450/1460 1560/1563
車両総重量(kg) 1330 1420 1420 1420 1480 1480
エンジン 水冷V型8気筒OHV
ボア×ストローク(mm) × 101.6×76.2
総排気量(cc) 5763 4942
燃料供給 キャブレター
圧縮比 10.5 8.6 11.0 11.0
最高出力(PS/rpm) 310/5400 266/5000 350/5000 330/5000 300/5400 305/5000
最大トルク(kgm/rpm) 52.5/3500 45.0/3500 45.0/3500 45.0/3000 52.5/3500 52.5/3500
エンジン搭載位置 ミッドシップ縦置き
駆動方式 後輪駆動
トランスミッション 5速MT
変速比 1速
      2速
      3速
      4速
      5速
      後退
最終減速比





最高速度(km/h) 265 280 270
ステアリング ラック&ピニオン
サスペンション 前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前後ディスク 前後ベンチレーテッド・ディスク
ホイール 7J×15(F)、8J×15(R) 7J×15(F)、8J×15(R) 7J×15(F)、8J×15(R) J×15(F)、J×15(R) J×15(F)、J×15(R) 8.5J×17(F)、12J×17(R)
タイヤ 185ER15(F)、215ER15(R) 215ER15 285/40(F)、345/35(R) 235/45ZR17(F)、335/35ZR17(R)
乗員定員(名) 2


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