Ferrari 355

セミモノコック、縦置きエンジン+横置きミッションなどの基本構成を348から継承しつつも、大幅に進化を遂げて
1994年5月に発表された。基本シルエットは348と共通のため、マイナーチェンジと思われたが、まったく別のクルマになっている。
エクステリアデザインは、ピニンファリーナが担当。348に採用されていた12気筒モデルのテスタロッサを意識したサイドや
リアのフィンは廃止され、よりエアの流入効率の高いインテークが上下に設けられ、すっきりしたデザインとなった。
高速域での空力特性を求め、フェラーリのロードカーとしては、初めて空力を生かしたグランドエフェクトデザインを導入。
348ではボディ下面にエアが流入しないようにデザインされていたが、355では逆にボディ下部へ流れ込むエアを活用するため、
ボディ下面にヴェンチュリー効果をもたらすアンダーカウルを採用。横置きギアボックスという構造を引き継いでいるため、
一部その部分が露出しているが、その効果は大きい。エアを高速でスムーズに取り込むために、
ノーズのデザインは中央部が湾曲している。ここからボディ下部へ入ったエアは、フロントアクスル部分で収束し、
さらに速度を高めた後、アンダーカウルの中心部で拡散。リアアクスルに向けてニ分割し、再びひとつに収束して、高速でリアから
排出される。この過程で強力なダウンフォースが生まれ、目立った空力付加物がなくても355は高い運動性能を発揮する。
サイドには流入したエアを外に逃がさないようにスプリッターも採用されている。

シャシーは基本的には348のもので、センターモノコックはスチールシートをプレス成型し、ロボットが溶接するなど、
生産工程には積極的に機械が導入されている。センターモノコックのリアには、エンジンなどのコンポーネントをマウントする
サブフレームが溶接されているが、新たに構造材が追加されているほか、サスペンションの取り付け部分も強化されている。
また、GTSにはクロスメンバーを追加するなど、剛性確保のための処置が行われている。
ボディは、前後のトレッドが広げられている。フロントが13mm拡大され1515mm、リアが32mm拡大されて1610mmとなっている。
ホイールベースに変化はなく、2450mmのまま。ヘッドライトはリトラクタブル式で、左右2灯式で、ライトは角型になっている。
ラゲッジスペースはボンネットに設けられており、スケドーニ製のバッグ入りの工具が収められている。
スペアタイヤは搭載されておらず、代わりにパンク修理材が積まれている。リアのテールランプは、丸目4灯が復活した。
リアのグリルは、放熱効果の高いメッシュのチャレンジタイプがオプションで用意されている。

エンジンは、348tb/ts用のF119G型・348GTB/GTS/スパイダー用のF119H型をベースに開発した、F129B型。
F119G型/F119Hはコストダウンを図ったシンプルな構造だったが、このF129B型は細部にわたる精密な加工と各バンクを独立した
コックドベルトでカムシャフトを駆動するメカニズムを採用している。ストロークを2mm延長して排気量を3.5リットルに
拡大するとともに、エンジンヘッドを5バルブ化。インレット側に3本/アウトレット側に2本のバルブを持つ。これは、フェラーリが
1990年から1993年までF1マシンで採用していたもので、そのテクノロジーが活かされている。エンジンブロックとシリンダーヘッドは
鍛造アルミニウム製。さらに、ピストンはマーレー社製のショートスカート型鍛造アルミニウム、コンロッドは従来のものより
30%軽量化されたチタン製を採用している。355という名称は、「3.5リットルの5バルブ」という意味を持つ。
サスペンショは、348と同じ、前後とも不等長Aアームを持つダブルウィッシュボーン。しかし、355では前後の
トレッドが拡大されており、電子制御可変ダンパーも採用されている。ブレーキは前後ともアルミニウム製の4ポット式
キャリパーを採用したベンチレーテッド・ディスク。加えて、ATE製の4センサー4チャンネル式のABSが標準装備されている。
このABSは、ドライバー自身によってキャンセルすることも可能。なお、後にオプションとなった
フィオラノ・ハンドリング・パッケージ(FHP)では、サスペンションのセッティングに加え、ブレーキにドリルドタイプの
ディスクが組み合わされる。ホイールは348の17インチから18インチに拡大され、素材もマグネシウム合金製になっている。
組み合わされるタイヤは、ピレリ社製のPゼロ、ブリヂストン社製のエクスペディアS-01、ミシュラン社製パイロットSX MXX3など、
複数が純正として装着される。サイズはフロント225/40ZR18、リア265/40ZR18とすべて共通だが、
タイヤの特性に合わせて指定空気圧は若干だがそれぞれ異なる。

インテリアは、フェラーリらしくスポーティで機能的なものとなっている。メーターは320km/hまでのスピードメーターと、
10000rpmまでのタコメーターが大きく配置され、その間に油圧計と水温が収まる。センターコンソールの3連メーターは、左から
時計、燃料、油温となっており、その下にはオーディオが配される。ステアリングは、パワーアシストが標準装備されており、
人気の一因となった。デビュー当初はエアバッグは装備されておらず、シンプルな3本スポークだったが、
1994年末に運転席側がオプション設定になった。このモデルはエアバッグを内蔵するため、4本スポークとなる。
1995年に登場したスパイダーでは運転席/助手席に標準装備となっており、それを機にベルリネッタとGTSにもエアバッグが
標準装備となった。センターコンソールには各種スイッチが配され、シフトゲートの手前には
エアコンのスイッチがレイアウトされている。ペダルはアルミ製で、シートはオプションでカーボン製のスポーツシートも用意されていた。
シートベルトはTRWサベルト製。内装はボディ色に関係なく、12色の中から自由に選択でき、ステッチの色も指定できた。

デビュー当初は、クーペのF355 berlinettaと着脱式ルーフを備える355GTSの2モデルだった。日本でのberlinettaの新車価格は1570万円。
1年後の1995年4月に電動フルオープンのスパイダーが追加された。これにより、355のデビュー後も継続して
生産されていた348スパイダーは生産終了となった。1997年にセミオートマのF1マチックが登場し、その人気に拍車がかかった。
通常のトルクコンバーターではなく、F1マシンに採用されていたものをベースに、マニエッティ・マレリ社との共同開発。
6速MTがベースとなっており、キヤボックス本体もMTと共通。クラッチとシフトの作業をアクチュエーターを使って行うことにより、
マニュアルミッションの機能をステアリング奥のパドルで操作することができる。左側のパドルがシフトダウン、右側がシフトアップで、
両方のパドルを同時に引くと、ニュートラル状態になる。ノーマル、スポーツ、オート、ローグリップの
各モードを選択することもできる。イタリア本国の仕様のギヤレシオは、MT/AT共通で
1速:3.07、2速:2.18、3速:1.61、4速:1.27、5速:1.03、6速:0.84、最終減速比:3.56だが、日本仕様では
よりクロスレシオの高い数値になっている。これは、最高速度よりも加速性能を求める顧客が多いため。
マニュアルではセンターコンソールにあるシフトゲートの代わりに、リバースセレクターとフルオートマチック/スリッピーの
両モードを選択するためのプッシュスイッチが配されている。メーターパネルのデザインも異なっており、
MTにあった油圧/水温メーターの代わりに、シフト状態を示すインジケーターが備わる。

デビューから生産終了までエクステリアに変更はないが、シャシーナンバーにより、前期/PA、中期/PR、後期/XRに分けられる。
前期/PAはエアバッグなし、中期/PRはエアバッグが標準装備となったもの。
1996年4月以降の後期/XRは、エンジン・マネージメント・システムが変更された。前期/PA、中期/PRのECUは
ボッシュのモトロニックM2.7で、V8のバンクを左右別々に制御。後期/XRでは、進化したモトロニックM5.2になり、
左右のバンクを1基で制御できるようになった。エンジンルームを見れば、エアフローメーターが個々独立しているか、
中央でまとめられているかで、違いがわかる。なお、エンジンスペックに変更はない。
後期モデルの途中までドイツメーカーのグラスリットが塗装に使われていたが、1997年春に
他のフィアット車と同じPPGに変更になっている。同じロッソコルサ(赤)でも、微妙に色の具合が異なる。



F355Berinetta


エアバッグ装備のステアリング

18インチに拡大されたホイール

ノーマルのグリル

メッシュのチャレンジグリル



355GTS



355Spider


■Specification
F355ベルリネッタ 355GTS 355スパイダー
発表年 1994 1995
生産年 1994〜1999 1995〜2000
シャシー セミモノコック
全長×全幅×全高(mm) 4250×1900×1170
ホイールベース(mm) 2450
トレッド前後(mm) 1514/1615
車両総重量(kg) 1440   1450 1490
エンジン 水冷90度V型8気筒DOHC40バルブ
ボア×ストローク(mm) 85.0×77.0
総排気量(cc) 3495
燃料供給 前期型:モトロニックM2.7 後期型:モトロニックM5.2
圧縮比 11.0
最高出力(PS/rpm) 380/8200
最大トルク(kgm/rpm) 37.0/5800
エンジン搭載位置 ミッドシップ
駆動方式 後輪駆動
トランスミッション 6速MT/6速セミAT(F1マチック)
変速比 1速
      2速
      3速
      4速
      5速
      6速
     後退
最終減速比
3.741
2.632
1.962
1.548
1.261
1.050
3.416
3.562
0→100km/h(秒) 4.7
0→400m(秒) 12.9
0→1000m(秒) 23.7
最高速度 295 290
ステアリング ラック&ピニオン
サスペンション 前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前後ベンチレーテッド・ディスク
ホイール 7.5J×18(F)、10J×18(R)
タイヤ 225/40ZR18(F)、265/40ZR18(R)
乗員定員(名) 2


(C)Copyright 2005 SUPERCAR NET, All Rights Reserved.



inserted by FC2 system