Enzo Ferrari
80年代のF40、90年代のF50に継ぐスーパースポーツ。2002年4月、東京都現代美術館で開催された
「フェラーリ&マセラティ展」において、FXという名で原寸大のモックアップが世界で初めて公開。その後、2002年9月26日のパリ・サロンで
正式発表された。開発コードはF50のF130に続くF140が与えられたが、F60とならずに、創始者「エンツォ」の名前がつけられた。
そのことからわかるように、このクルマに対するフェラーリの意気込みが伝わってくる。

フルカーボンのエクステリアはピニンファリーナ社によるデザインだが、フロントノーズをはじめ、かなりF1のイメージが取り入れられている。
当然エアロダイナミクスが重視され、ボディ下部に設けられたベンチュリートンネルによってグランドエフェクト効果がもたらされる。
ノーズのエンブレム下にあるインテークは、ベンチュリートンネルにエアを送り込むためのフラップとなっており、
ここから導入されたエアは、リアのディフューザーから排出されるまで、収束と発散を繰り返し、これにより効果的なダウンフォースを
得ることができるようになっている。その効果は、F50、360モデナよりもさらに進化している。ノーズのデザインはF1マシンを意識しており、
その形状からノーズコーンを連想させる。その左右にあるエアインテークはラジエーターの冷却用で、エアは
ボンネットのダクトから排出される。ヘッドライトはキセノンを標準装備。ウインカー、ポジションランプまで一体式ユニットになっており、
パネルはカーボン製。 F1のノーズに該当する部分は、ボンネットとして開閉。あまり容量はないが、
ラゲッジスペースとして機能する。左右非対称の形状をもつドアミラーは、より視認性を高めるためフェンダー上に配置されている。
フロントフェンダー後方には、エアアウトレットが設けられている。ドアは、マクラーレンF1のように斜め前方に開くガルウィングタイプ。
乗降性を考えた結果であり、レースカーでは512Sがあったが、フェラーリの市販車としては初の採用となる。
燃料はF1をスポンサードするシェルの95オクタンガソリンが推奨されており、運転席側のサイドウインドウ後方にフューエルリッドが備わる。
ドア後方のインテークは上部はエンジンの冷却用で、下部はリアブレーキの冷却用。エンジン上部はガラスフードで覆われており、
外から鑑賞することができる。ガラスフードの左右には放熱用のエアアウトレットが設けられているほか、左右の
テールランプの間もエアアウトレットとなっている。その上部には可変式のリアスポイラーが装備されており、最大で75mmアップし、
ダウンフォース量の増加に効果を発揮する。テールランプはフェラーリ伝統の丸型だが、やや小型になっている。
マフラーのサイレンサーは1つで、左右4本出し。アンダー部分には、固定式の整流板を持つディフューザーが備わる。

シャシーは、F50同様にCFRPを主材料とするモノコックタブ。ただし、モノコックタブにパワーユニットを剛結した
F50は振動・騒音が問題となったため、エンツォではモノコックタブにサブフレームを連結している。フロントサスペンションは
モノコックタブに直接接合されるが、電動ファン付きのラジエーターはサブフレームに搭載。エンジンはミッション、デフとともに、
一体式ユニットとして、プッシュロッド式のリアサスペンション同様、リアのサブフレームにマウントされる。
これにより、乗り心地はF50よりも大幅に改善されている。なお、この構造により、ボディパネルは応力を一切負うことはない。
パネルはすべてカーボンファイバー製で、レースカーのように、2枚のカーボンパネルの間にアルミハニカム材を
組み合わせて強度を確保している。ボディサイズは、F50の全長44802mm×全幅1986mm×全高1120mmに対し、
エンツォは全長4702mm×全幅2035mm×全高1147mm。ホイールベースは、F50より70mm長い2650mmとなっている。
トレッドは、F50のフロント1620mm/リア1602mmに対して、エンツォはフロント1660mm/リア1650mmとややワイドになっている。

ミッドに縦置き搭載されるエンジンは、F140型という新開発の水冷65度V型12気筒DOHC48バルブ。F50のエンジンと
同じバンク角を持つが、5バルブではなく、4バルブであり、まったくの白紙の状態から開発された別物である。
ボア92.0mm×ストローク75.2mm、排気量5998cという、ショートストローク型ユニットで、潤滑方式はドライサンプ。
ブロックはアルミニウム製で、エンジン単体の重量はわずか225kgしかない。可変バルブタイミング機構、可変慣性過給システムなどを採用し、
それをボッシュ社のモトロニックME7で制御。最高出力660PS/7800rpm、最大トルク67.0kgm/5500rpmを発揮し、最高速度は350km/h。
F50よりも140PS/19.0kgm向上し、最高速度も25km/hアップしている。エンツォの車重はドライ状態で1255kgなので、
パワーウエイトレシオは2.1kg/PSになる。このパワーユニットに、マニエッティ・マレリ社との共同開発による6速のセミAT
「F1マチック」が組み合わされる。標準のほか、スポーツとレースモードがあり、ドライバーが自由に選択できるようになっている。
各モードはサスペンションの電子制御可変ダンパーやABS、ASRにリンクし、そのセッティングも変化する。
なお、レースモードでASRをカットした状態では、ラウンチコントロールと呼ばれる、レーシングスタートが可能となる。
サスペンションは前後ともプッシュロッド式のダブルウィッシュボーンを採用し、スプリングとダンパーはほぼ水平にマウントされている。
ダンパーには電子制御式の減衰力可変機構が組み込まれており、F1マチックのモードに合わせて減衰力可変モードも変化する。
フロントサスペンションには、段差などを乗り越える際に便利な車高調節機構が組み込まれている。ブレーキは前後とも
ベンチレーテッド・ディスクだが、ブレンボ社との共同開発で、軽量な新素材CCM(カーボン・セラミック・マテリアル)が採用されている。
スチールで成型した通常のものと比較して、1輪当たり12.5kgも軽い。キャリパーはフロント6ポッド、リア4ポッドで、
ABS、ABSを利用したトラクションコントロールのASRを備えている。ホイールは、BBS社の1ピース鍛造マグネシウムの
センターロックタイプの19インチ。サイズは、フロントが9J×18、リアは13J×18。タイヤは、ブリヂストン社と開発した
左右非対称パターンの専用タイヤ、ポテンザRE050Aスクーデリアを履く。サイズは、フロントが245/35ZR19、リアが345/30ZR19。

インテリアは、機能的かつ先進的に仕上げられている。メーターナセルには、アナログ10000rpmまでのタコメーターと
400km/hまでのスピードメーター、その左に水温、油温、時計、故障箇所など、あらゆるデータを表示するマルチディスプレイが
配置されている。タコメーターとスピードメーターの針は、レーシングカーのようにエンジン停止時に真下を指すようなっている。
ステアリングは、前方視認性を高めるため、上方をカットした変形楕円でカーボンとスキン仕上げ。スポーク部分には、
F1マシン同様、各種スイッチが配置される。左右にある矢印付きのスイッチはウインカー、左につ並んだスイッチは
いちばん上がMODE、真ん中はSETで、マルチディスプレイの切り替え/設定用。いちばん下は車高調整スイッチ。
右の3つは、いちばん上のRACEがシフトスピードの切り替えスイッチ、真ん中のASRはトラクションコントロールのオン/オフ、
いちばん下のRはリバーススイッチになっている。ステアリング上のカーボン部分には、シフトインジケーターが内蔵されており、
7つのLEDで的確なシフトタイミングをガイドする。シフトは、マニュアルの設定はなく、セミATのF1マチックのみ。
ステアリングの付け根にカーボン製のパドルが装備され、右がシフトアップで、左がシフトダウン、両方を同時に引くとニュートラルに戻る。
ほかの量産モデルにある、オートマチックモードは設定されていない。ダッシュボード中央には、エアの吹き出し口、
エアコンのスイッチがある。センターコンソールには、いちばん上のエンジン・スターターに続いて、ハザード、パーキング、リアフォグ、
左右ドアミラー調整の各種スイッチが配置される。ボディ同色のシートは、スパルコ社のバケットタイプで、S/M/L/XLの4種類の中から
体型に合った好みのタイプを選ぶことができた。前後スライドに加え、リクライニングも可能。360モデナのスポーツシートと
形状は同じだが、シェルの形状をカーボンにして軽量化を図ってあり、重量はわずか12.4kgしかない。ペダルは、F1シフトのため
アクセルとブレーキのみで、アルミの削り出しとなっている。アクセルは左右に20mm、ブレーキは上下左右に20mm調整することが可能。
ドアのインナーはカーボン製で、ウインドウの開閉は軽量化のために電動ではなくダイヤル式になっている。

開発には、F1ドライバーのミハエル・シューマッハも関与。ハンドリングやブレーキ、シフトプログラムに
彼の意見が反映されていると、リリースされた。生産台数は、当初F50と同じ349台と発表されたが、購入を希望する顧客が多く、
2002年9月のパリ・サロンでは399台に修正された。他モデルとは異なり、専用のラインで22名の専属スタッフにより、
ほとんど手作業で仕上げられた。発表後すぐにデリバリーが始まり、2004年夏に生産終了。
日本には正規輸入代理店のコーンズによって、33台が輸入された。当時の価格は7850万円。並行輸入でも、かなりの台数が入ってきている。
なお、2004年のジュネーブ・ショーで、このエンツォをベースにしたレーシングモデルのMC12がマセラティから登場。
2005年には、FXXという名前のサーキット専用モデルが発表された。




F1マシンをイメージしたノーズ


ライト/ウインカー一体型ユニット


左右非対称のミラー形状


ガルウィングドア


Fフェンダー後方のアウトレット

上下にあるエアインテーク

丸型テールランプ

リアのディフューザー



FXX
2005年6月のリリースに続き、12月のボローニャ・ショーで正式に発表された、エンツォがベースのサーキット専用マシン。
世界29台の限定で、オーナー自身がテストドライバーとして、フェラーリ社の技術開発プログラムに参加。走行データは、次期開発モデルに
フィードバックされることになっている。また、プロドライバーによるドライビングレッスンの受講、国際レベルのサーキットで行われる
イベントに参加する権利などが与えられ、フェラーリのオフィシャルテクニカルチームがサポートを務める。価格は150万ユーロ(約2億円)で、
フェラーリ社や各国の正規ディーラー主催のイベント時のフルサポート代が含まれており、オーナーは何も準備する必要がない。
水冷V型12気筒DOHCエンジンは、5998ccから6262ccに拡大。8,500回転で最高出力800PS以上と発表された。
これは、エンツォよりも140PSアップとなる。ギアボックスは、F1の技術を継承したFXX専用のセミATになっており、
ギアチェンジに要する時間は100ms以下を達成。これは、世界最速で、F1マシンに並ぶスピード。
ボディパネルはオールカーボン製で、車重は1,155kg。これはエンツォよりも100kg軽く、パワーウェイトレシオは1.44kg/hp。
サスペンションのダンパーユニットはザックス製で、減衰力を伸び・縮み側で調整することが可能。
ホイールは、BBSの鍛造マグネシウムでサイズは前後とも19インチ。タイヤは、フェラーリとブリヂストンが共同開発した
19インチのポテンザ専用スリックを履く。レイン用はラジアルで、ポテンザのRE50スクーデリア。
ブレーキは、ブレンボ社のセラミックコンポジットディスクブレーキを採用。専用のブレーキクーリングとパッドのシステムも開発された。
エアロダイナミクスは大幅に見直されており、ロングノーズ/ロングテール化されている。トレッドもワイドになっている。
ヘッドライトはコンパクトなものに変更され、ノーズ先端には室内へフレッシュなエアを取り込むためのNACAダクトが追加された。
リアエンドの中央部には可変ウイング、それを挟むようにフェンダー後方に7段階にフラップの角度を調整できるサイドウイングが追加されている。
ディフューザーの機能を損なわないように、もとはテールランプがあった場所にエキゾーストが配置された。その関係で、
テールランプは、いちばん下のダクトに超小型のLEDランプが備わる。リアバンパー下部中央には、エアジャッキ用の接続ポイントが装備される。
ダウンフォースはエンツォより40%向上しており、フィオラノのラップタイムは、1分18秒フラットという驚異的な数字を記録。
室内には極太のロールケージが備わるほか、シートはスパルコ製のフルバケットに変更。フロアに直接固定されており、
リクライニング機構は備わらない。デジタル式のメーターは、ウォームアップ、プラクティス、レースの各モードに切り替え可能で、
それぞれ表示内容が異なる。エンジンルームとの間にバルクヘッドが設けられたため、バックミラーもサイドミラーもない。
後方確認用にルーフにCCDカメラが設置され、ダッシュボードのモニターに映像が映し出される。
レーシングカーらしく、車両本体の他、バッテリーチャジャー、燃料チャージャー、スペアホイール、カーカバー、
バックアップデータCD、レーシングスーツなどが、3つの専用ボックスで付属する。




室内用のNACAダクト



埋め込み式の小型ヘッドライト



ハメ込み式のサイドウインドウ



鍛造マグにスリックタイヤ



ルーフにある後方用CCDカメラ

7段階に調整できるサイドウイング

上方排気のエキゾ−スト

右がウインカー、左がストップランプ

■Specification
発表年 2002 2005
生産年 2002〜2004 2005〜2006
生産台数 399 29
シャシー CFRP+アルミハニカム複合
全長×全幅×全高(mm) 4702×2035×1147 4832×2040×1127
ホールベース(mm) 2650
トレッド前後(mm) 1660/1650
車両総重量(kg) 1255 1155
エンジン 水冷65度V型12気筒DOHC48バルブ
ボア×ストローク(mm) 92.0×75.2 94.0×75.2
総排気量(cc) 5998 6262
燃料供給 ボッシュモトロニックME7
圧縮比 11.2
最高出力(PS/rpm) 660/7800 800以上/8500
最大トルク(kgm/rpm) 67.0/5500 70.0/5750
エンジン搭載位置 ミッドシップ縦置き
駆動方式 後輪駆動
トランスミッション 6速セミAT(F1マチック)
0→100km/h加速(秒) 3.65
0→400m加速(秒) 11.0
0→1000m加速(秒) 19.6
最高速度(km/h) 350
ステアリング ラック&ピニオン
サスペンション 前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前後ベンチレーテッド・ディスク
ホイール 9J×18(F)、13J×18(R) 9J×19(F)、13J×19(R)
タイヤ 245/35ZR18(F)、345/35ZR18(R) 245/35ZR19(F)、345/35ZR19(R)
乗員定員(名) 2 2

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