F40

1987年7月21日、フェラーリ創立40周年の記念モデルとして、当時89歳だったエンツォ・フェラーリ自身により
マラネロでプロトタイプが公開され、同じ年の9月に開催されたジュネーブ・ショーで正式に発表された。
他にも候補はあったが、エンツォの決断でミケロットによりグループB競技用に開発された288GTOエボルツィオーネをベースに
スパルタンなロードゴーイングモデルを開発することが決まった。プロジェクトは、発表前年の6月にスタート。
社内では「ル・マン」と呼ばれ、F1ドライバーのミケーレ・アルボレートも開発に携わった。

288GTOエボルツィオーネがベースだが、フェラーリ伝統の鋼管スペースフレームに、左右分割型のフロア、ドアストラットカバー、
ファイヤーウォールなどが組み合わされ、強固なキャビンを形成。その前後にサスペンションや
パワーユニットを搭載するためのサブフレームがあり、走行中の振動などのストレスはこのフレーム構造が吸収。
これによりボディパネルに負担がかからないので、軽量な新素材を使うことが可能になった。
なお、これ以降のモデルはモノコック構造となり、フェラーリ最後の鋼管スペースフレーム・モデルでもある。
フロントカウル、ルーフ、ドア、サイドステップ、リアフェンダー、リアカウル、リアアンダーカウルなど、ボディ各部はF1やグループCカーに
使われているカーボン、ケブラーで構成され、シャシーと各部の補強にも複合素材を多用。コックピットを囲むようにフレームへ
固定したカーボン/ケブラーパネル、バルクヘッドに使われたアルミハニカムコアをケブラー強化樹脂で挟んだパネル、
ドアストラップの部のノーメックス強化樹脂とケブラーなど、補強材やボディパネルは、基本骨格となる鋼管フレームに
特殊な接着剤で結合される。これは、1980年代から積極的に進められてきたF1テクノロジーを取り入れたもの。

エクステリア・デザインは、ピニンファリーナのチーフデザイナーを務めていたレオナルド・フィオラバンティが担当。
大型のリヤウイング、リヤエンドのディフューザー、フラットフロアなど、エアロダイナミクスが追求され、風洞実験を経て
そのデザインが決定された。ヘッドライトは四角形で、リトラクタブルになっている。その前部には、ウインカーとポジションランプが
アクリルでカバーされている。ボンネットにあるNACAダクトは、室内空調用。サイドのインテークは上がインタークーラー冷却用で、
下がブレーキ冷却用。フェンダー上方にもNACAダクトがあり、左側はエンジンのオイルクーラー冷却用、右側は中で2分割されており、
外側はギアのオイルクーラー用、内側はエンジンルーム用となっている。リヤウイングの右側には、
「F40」のロゴが彫りこまれている。フロントカウル内にはスペアタイヤが収められ、その下にバッテリーが配置されている。
エンジンカバーはアクリル製で、リヤカウルを閉めたままでもエンジン本体を鑑賞することができる。フロントカウル/リヤカウルとも、
ドアと同じキーで施錠/開錠する。ホイールベースは288GTOと同じ2450mmだが、前後のトレッドは1594mm/1610mmに拡大されている。

エンジンは、F120A型の型式名を持つ、水冷V型8気筒DOHC32バルブ+ツインターボをミッドに縦置き搭載。
ターボチャージャーはIHI(石川島播磨重工)製のツインで、左右それぞれのバンクを過給する。
排気量は288GTOの2855ccから2936ccへと拡大され、ターボの最大過給圧は0.8barから1.1barへと高められている。
最高出力478PS、最大トルク58.8kgm、最高速度324km/hというスペックは、当時かなり衝撃的だった。
サスペンションは、前後とも不変長Aアームを用いるダブルウィッシュボーン。ダンパーは、フロントは上下Aアームの間に、
リヤはドライブシャフトとの干渉を避けるため、アッパーアームとサブフレームの間にマウント。ショックアブソーバーはKONI製。
ブレーキは4ポッド対向ピストンを持つアルミ製大型キャリパーとドリルド・ベンチレーテッドディスクを組み合わせたブレーキだが、
ABSはもちろん、ブレーキサーボも持たないスパルタンなものとなっている。ホイールは、スピードライン製の17インチ径の
アルミニウム。タイヤはフロントが245/40ZR17、リヤが335/35ZE17で、ピレリP7を履く。
エキゾーストパイプは3本だが、外側の楕円2本は排気用で、真ん中の1本はウエストゲートから排出されるガスのためのもの。

カーボンやケブラーを多用された室内はレーシングカー並みに簡素で、オーディオも灰皿もない。ステアリングは
モモ製の小径タイプ。メーターは左から、水温、スピード、タコ、ブースとが配置されており、スピードメーターのスケールは
360km/hまである。シートはレースカーにも採用されている、ケブラー一体成形のフルバケットタイプで、
レッドのクロス張りが標準。S、M、Lの3種類が用意され、オーダーした顧客はフェラーリ本社でフィッティングしてセレクトできたが、
ほとんどの顧客はSを希望した。前後スライドはできるが、それ以外の調整はできない。
ドアトリムはカーボン素材が無塗装のまま使われており、開閉はワイヤー式になっている。

実際に生産がはじまったのは、1988年になってから。プロトタイプと量産モデルでは、外観にいくつか変更点がある。
フロントにリップスポイラーが追加され、サイドウインドウにビス止めされていたミラーがドア・パネルにマウントされ、回転可倒式になった。
サイドウインドウはプロトタイプから生産23台目までスライド式の小窓タイプだったが、生産モデルは通常のレギュレーターで開閉できる。
リアフェンダーのスリットはプロトタイプの5本に対し、量産モデルが4本、エンジンカバーのスリットがプロトタイプが
左右10本ずつに対し、量産モデルは左右5本ずつ+最下部中央に1本となっている。ボディカラーは、
ロッソコルサFer300/9というレッド一色のみ。イエローやブラックの個体も存在するが、それらはリペイントされたもの。

1990年からキャタライザーが装着されるようになり、日本仕様ではそれ以前のモデルを前期型、
キャタライザー装着モデルを後期型と区別している。キャタライザー仕様は、ミッション上部のパイプフレーム、ウエストゲート、
エアクリーナーの形状も変更されている。その他の識別点は、ヘッドライトカバーのシール形状の変更、
フロントラジエター周辺を黒色塗装、フロントフェンダー後ろのエア抜け部分にメッシュカバー追加、リアカウル接合部分に
雨水の侵入を防ぐシールドの追加、リアカウル内側のステーがあたる部分に金属板を追加、オイルクーラーの周辺を黒色に塗装、
オイルフィーラーキャップを波型に変更、テールパイプ周辺にトリムを追加など、細かな改良が加えられている。
しかし、性能的な差はないとフェラーリはアナウンスしている。1991年モデルから、車高調整装置が装備されるようになった。
このシステムは発表当初よりアナウンスされていたが、4年以上経過してから追加されたもので、それ以前のモデルにも
後付することができた。コンピュータ制御で、40km/hになると30mmダウンし、90km/hに達するとさらに20mm車高が下がる。
マニュアルでも操作可能で、最大で約50mm車高が変化する。スイッチは、インパネのいちばん左にある。

レースにも参戦。ジャン・アレジのドライブでアメリカIMASAシリーズをはじめ、ル・マン24時間耐久レースなどでまずまずの成績を残した。
F40LMの発展型として、F40コンペティツィオーネが作られた。ボディサイズは4430×1980×1130mmだが、
リヤウイングはエンドステーを残して、カーボン素材に変更されており、可変タイプとなった。エンジンは最高出力780PS/8100rpm、
最大トルク72.8kgm/5700rpmまでチューンされた。車重は1050kgまで軽量化され、最高速度は370km/h。
ブレーキのローターは355mmで、キャリパーはブレンボの4ポッド。ホイールはOZ製のマグネシウムによるワンピースで、
フロントが12J×17、リヤが14J×17。タイヤは、グッドイヤーのレーシングスリックを履く。
室内はレーシーで、メーターはデジタル表示。ステアリングはOMP製のバックスキンとなっている。

生産は、フェラーリ本社とスカリエッティの2ヵ所で行われた。まずスカリエッティの工場で、特製スチールパイプを溶接し
フレームを作る。それを、マラネロにあるフェラーリの工場へ送って塗装した後、再びスカリエッティに戻され、
カーボンとケブラーのボディパネルが組み付けられる。そして、マラネロで塗装から最終アッセンブリーが行われ完成となる。
もちろん、すべてがハンドメイドで行われている。

当初は400台限定の予定だったが、オーダーが引きも切らず、最終的に1311台が生産された。
日本には、正規代理店のコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドによって、60台弱が輸入された。
新車当時の価格は4500円だが、バブルの影響で2億円のプライスがついたこともあった。
ヨーロッパ/日本仕様のほか、ノーズにプロテクターを装着するなど、細部が異なるアメリカ仕様も存在する。
創始者エンツォが開発を指示した最後のフェラーリであり、今なお高い人気を誇っている。





ポジションランプとウインカー


超初期型のスライド式小窓


ボディ各部にある冷却用ダクト


4本になったリヤのスリット


17インチのタイヤとホイール

Rウイング右側にあるF40の刻印

クリアタイプのエンジンカバー

純正のエキゾーストパイプ

▲F40LM
■Specification
発表年 1987
生産年 1988〜1992
生産台数 1311
シャシー 鋼管スペースフレーム
全長×全幅×全高(mm) 4430×1980×1130
ホイールベース(mm) 2450
トレッド前後(mm) 1594/1610
車両総重量(kg) 1110
エンジン 水冷90度V型8気筒DOHCツインターボ
ボア×ストローク(mm) 82.0×69.5
総排気量(cc) 2936
燃料供給 電子制御燃料噴射
圧縮比 7.8
最高出力(PS/rpm) 478/7000
最大トルク(kgm/rpm) 58.8/4000
エンジン搭載位置 ミッドシップ縦置き
駆動方式 後輪駆動
トランスミッション 5速MT
0→200km/h加速(秒) 12.0
0→1000m加速(秒) 21.0
最高速度(km/h) 324
ステアリング ラック&ピニオン
サスペンション 前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前後ベンチレーテッド・ディスク
ホイール 8J×17(F)、13J×17(R)
タイヤ 245/40ZR17(F)、335/35VR17(R)
乗員定員(名) 2

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