Mclaren F1
F1コンストラクターのマクラーレンによって、生み出された究極のロードゴーイングカー。
実際にF1マシンの設計経験もあるゴードン・マーレーの指揮により、一切の妥協を許さず、コストも度外視され、開発がスタート。

1989年3月には、別会社としてマクラーレン・カーズが設立された。当初の計画では、1993年から年間50台を生産し、
300台に達した時点で終了する予定だった。1992年5月のF1モナコGPで、モックアップが公開。エクステリア・デザインを手掛けたのは、
ロータス・エランをデザインしたピーター・スティーブンス。ほぼ完成形であり、ミラーの位置などの細部以外は、
その後の量産モデルとほとんど変わらなかった。同年12月に、最初のプロトタイプのXP1が完成。さらに、XP2、XP3、XP4、XP5の、
5台のプロトタイプによってさまざまま研究・開発が行われ、1994年1月に第1号車がデリバリーされた。

ボディは、徹底的にグランドエフェクトを追求。車体の下に積極的に空気を流すだけではなく、エンジンルーム内の
熱気を排出する電動ファンにより、強力なダウンフォースを得るシステムを取り入れている。これは、1978年にゴードン・マーレーが
ブラバムBT46で採用したものだが、他チームの猛反発にあい、わずか1レースで禁止となったもの。
しかし、ロードカーでは問題ないため、このF1で採用された。ルーフやノーズ、サイドなど、各部を冷やすための
エアインテークが設けられているが、吸入だけではなく空気の排出経路も綿密に計算され、その位置にレイアウトされている。
これらにより、リアウイングなどの空力デバイスなしでも、370km/hオーバーの最高速度を誇る。
パッケージングは綿密に計算され、乗員や燃料の残量、荷物の搭載量などが変わっても、重心位置のズレが1%以内になるようになっている。
シャシーは、フルカーボンコンポジット製のモノコックを採用。コックピットの前後を貫通する箱型断面のフレーム構造で、
フェラーリF50のバスタブ型よりもはるかに複雑になっている。マクラーレンのボディ工場で手張りで貼り込まれ、オートクレーブによって
蒸し焼きにされたドライカーボンで、ピラーやルーフにまでCFRPを使用した複雑な形状をしている。ボディ強度は高く、
クラッシュテストを受けた後でも自走できた。ただし、カーボンは補修できないため、全損になる。モノコックに加え、チタン製のシフトレバーや
アクセルペダル、マグネシウム製のホイールやオイルサンプなど、モノコック以外の金属部分に軽量な新素材を多用。
ボンネット内に収められているケンウッド社のオーディオ・システムは、ゴードン・マーレーの要求により、重さ9kgに抑えられている。
さらには、ボンネット内のブレーキ/クラッチのリザーバータンク・キャップはアルミ削り出し、搭載する工具もチタン合金鍛造にするなど、
徹底して軽量化を追求。これにより、エアコンなどを装備した状態でも、車両重量はわずか1140kgしかない。
これは、他のV12エンジン搭載モデルと比べると約400kgも軽く、そのパフォーマンスに多大な影響を及ぼす。

エンジンは、BMWモータースポーツ社の水冷V型12気筒DOHCをミッドに縦置き搭載。当時のマクラーレンのF1マシンが
ホンダエンジンを搭載していたため、ホンダV10というプランもあったが、よりパワフルなライバルの登場を予想し、
BMWのV12を選択したという。このS70/2型は、当時の750i(E32)に搭載されていたものをベースに、ゴードン・マーレーの要求に応え、
新たに開発したもの。オールアルミ製で、リッター当たりの出力が100PSを超えるにもかかわらず、補器類を含んでも
わずか260kg、60cmという軽量コンパクト。最高出力627PS7400rpm、最大トルク66.4kgm/5600rpmを発揮し、
最高速度は370km/hオーバーと発表された。しかし、イタリアのテストコース、ナルドで行われた最高速テストでは386.7km/hを記録した。
スロットルは各気筒独立した12連で、フライ・バイ・ワイヤーで制御。点火系は、ダイレクト・イグニッションで、
TAG社の電子制御燃料噴射システムが組み合わされている。ミッションは軽量なマグネシウムケースが採用された6速MTで、
クラッチはカーボン製のトリプルプレート。エンジンルームの内側や触媒の周辺には、遮熱効果のため
22Kの金箔が貼り込まれ、4本出しのマフラーには、超耐熱軽合金のインコネルが採用されている。
サスペンションは前後ともダブルウィッシュボーンを採用。フロントの上下アームは、大型サブフレームを介して、モノコックに取り付けられる。
リアはシンプルな上下Aアームとなっている。ブレーキはドリルドタイプの4輪ベンチレーテッド・ディスクに、ブレンボ社の
アルミ製4ポットモノブロックキャリパーが組み合わされている。また、ブレーキには最適な効きやフィーリングを得られる適温があるため、
冷却ダクトをコンピュータで制御。必要なときに開閉し、ブレーキをベストな状態に保つようになっている。
高速からのハードブレーキング時には、リアの可変式スポイラーが起立。これにより、Cd値が0.32から0.4まで上がり、
瞬時に制動力を高める。このシステムは自動だが、手動でも操作することができる。タイヤは実測370lm/hに耐えられるものがないため、
グッドイヤーと共同で専用のパイロットSXを開発。F1マシンのレインタイヤをベースに、サイドウォールをより強化したものとなっている。
サイズは、フロントが235/45ZR17、リアが315/45ZR17を履く。。ホイールもこのクルマ専用のもので、
OZレーシング社のマグネシウム製センターロック型ワンピース。サイズは、フロントが9J×17、リアが11.5J×17となっている。
最先端のテクノロジーや新素材が使われているが、トラクションコントロール、ABS、パワーステアリングなど、電磁制御のアシストは
ほとんど採用されていない。これは、ドライバーがクルマの動きをダイレクトに感じることができるように、という配慮から。

ドアは斜め前方に開くガルウィングタイプを採用し、ドライバーがセンター、その斜め後方に2名が乗車できる、3人乗り。
レザー製のシートは、スライドはできるが、リクライニング機構を持たない。ステアリングは3本スポークで、
センターパッドはカーボンがあしらわれている。イグニッションはスターターボタン式で、メーターは中央に8000rpmまでの
タコメーターを持つ3連。スピードメーターのスケールは、400km/hまである。シフトレバーは、
レーシングカーに習い、ドライバーの右側に位置する。その前方には、オーナーズプレートと一体となった
キーシリンダーが配置されている。各ペダルは、アルミの削り出しで、細かくアジャスト可能。オーディオは
ケンウッド社の専用CDチェンジャー付きが採用されるほか、エアコンやパワーウィンドウを標準装備している。また、荷物の量によって
前後の重量配分が変わらないように、ドアとリアタイヤの前にラゲッジスペースが設けられている。そのスペースにあわせた
専用ケースも付属しているほか、シートのスペースに収まる専用のゴルフバッグもあり、2セット載せることができる。

発売当時の価格は、53万ポンド。日本円にすると約9000万円だが、「安い」という印象が強い。というのも、その内容からすると、
到底1億円で作れる内容のクルマではなかったからだ。しかし、希望者が誰でも購入できるものではなく、マクラーレンから
選ばれた幸運な人のみが手にすることができた。日本でも発売前に岡山のTIサーキットで試乗会が行われ、当時のF1ドライバーだった
ミカ・ハッキネンが来日した。購入が決まったオーナーは、イギリスにあるマクラーレン・カーズ本社で、シート合わせを行い、
ステアリングやペダルの位置も調整された。フェラーリF40/F540の場合は、数種類用意された中からシートを選ぶだけだったが、
F1ではきちんと体型に合わせてシートが作られた。メンテナンスは指定の工場が決められており、そこ以外での整備は禁じられているほか、
個人間の売買も禁止。一度マクラーレン・カーズにクルマを戻し、そこから次のオーナーへと届けられるなど、徹底して管理されている。

レースカーとしてのポテンシャルも高く、レースバージョンのF1GTRは、1995年の第63回ル・マン24時間や1996年の全日本GT選手権で
総合優勝を果たすなど、輝かしい成績を残している。あまり知られていないが、ロードバージョンの限定モデルとしてF1LMとF1GTもある。
F1LMは1995年のル・マン24時間レースにおける総合優勝を記念したモデルで、F1GTRをベースに5台が作られた。
リアスポイラーの翼端板に、「F1GTR 24ル・マン・ウイナー1995」と記されている。F1GTは、GTカテゴリーのホモロゲーション取得のための
モデルで、前後のオーバーハングとトレッドを拡大するなど、エアロダイナミクスを改良し、1997年に3台が市販された。
シートやインテリアにコノリーレザーが貼られ、レースでもABSが使用できるように、F1の中で唯一ABSが設定されている。
F1は、プロトタイプを除いてロードバージョンが64台、GTRが24台、LMが5台、GTが3台の合計96台が生産された。




▲F1GTR
■Specification
発表年 1992
生産年 1994
生産台数 64
シャシー カーボンコンポジットモノコック
全長×全幅×全高(mm) 4287×1820×1140
ホールベース(mm) 2718
トレッド前後(mm) 1568/1472
車両総重量(kg) 1140
エンジン 水冷60度V型12気筒DOHC48バルブ
ボア×ストローク(mm) 86.0×87.0
総排気量(cc) 6064
燃料供給 電子制御燃料噴射
圧縮比 11.1
最高出力(PS/rpm) 627/7500
最大トルク(kgm/rpm) 66.4/5600
エンジン搭載位置 ミッドシップ縦置き
トランスミッション 6速MT
最高速度(km/h) 370以上
ステアリング ラック&ピニオン
サスペンション 前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前後ベンチレーテッド・ディスク
ホイール 9J×17(F)、11.5J×17(R)
タイヤ 235/45ZR17(F)、315/45ZR17(R)
乗員定員(名) 3

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