Porsche 959

1983年9月のフランクフルト・ショーで、WRCのグループBホモロゲーションを取得するためのモデルとして公開された。
959ではなく、「グルッペB」という名前で展示されおり、市販バージョンに装備されたブレーキ冷却用のダクト、リアフェンダー上の
エアインテーク、ライトカバーもなかった。市販バージョンが公開されたのは、1985年9月のフランクフルト・ショー。
ボディカラーはシルバーでグループBのホモロゲーションを取得するため、200台の限定と発表された。電子制御フルタイム4WDをはじめ、
当時の最新テクノロジーをすべて投入したハイテクマシンであり、価格は約42万マルク。当時の日本円で、約3300万円だった。

モノコックは鋼板をプレスし、溶接で組み上げたもの。フロントからリアまでの左右2本のフレーム、強化された結合部など、
ノーマルの911とは別物になっている。前後バンパーはポリウレタン、フロントフードとドアがアルミニウム、それ以外は新素材のケブラーを
6層に積層しエポキシ樹脂で固めた複合素材が使用されるなど、外板にスチールは一切使われていない。
フロアにも一部ノーメックスを使用し、軽量化を図っている。エクステリアはスムーズな曲面で仕上げられており、ボディ下面はフラットな
アンダーカバーで覆われ、エアロダイナミクスの向上が図られている。Cd値は、0.31。基本設計の古いボディを基本としている割には、
優秀といえる。フロントウインドウは、ボディ素材の関係上、ラバーのウェザーストリップで固定できなかったため、
特殊な接着材で固定されている。これにより、わずかだが段差がなくなり、エアロダイナミクス向上に貢献している。
FRP製のリアフードは、通常の911よりも大きく開く。オーバーヒート対策のため、フードを少し開けた状態で固定できる
パーツも装備されている。見えづらいが、エンジンフードの後端にウレタン製のリップスポイラーも付いている。
フロントバンパー左右にあるダクトは、オイルクーラーや水冷ヘッド用のラジエターの冷却用で、リアバンパー左右のダクトは
吸入空気の冷却用、フェンダー前のダクトはエンジンルーム内のインタークーラー冷却用となっている。
ガソリンの給油口は通常の911と同じフロントにあるが、フェンダー上ではなく、ボンネット左上となっている。
左ドア後方に車高調整のオイル、右ドア後方にはエンジンオイル用の給油口も設けられている。
リアバンパーから伸びるマフラーは実はカバーで、本当のマフラーはその奥にある。

伝統のリアエンジンのレイアウトを採用しているが、水冷水平対向6気筒DOHCにKKKツインターボ+空冷インタークーラーを装備。
ツインターボだが、2基のターボは同時ではなく、シーケンシャルで過給される。低回転では1基目のターボが
両バンクをカバーするが、4000rpmで2基目のターボが作動し、左右のバンクを別々に過給する。なお、最大過給圧は0.9〜1.0と、
やや高めとなっている。ヘッド部分は、ポルシェ初の水冷。コンロッドは市販車では初のチタニウムを採用している。

このエンジンはグループCのレースカーである956のものをベースとしているが、959はヘッドが各気筒独立となっているほか、
油圧タペットの採用やチェーン駆動など、細部が異なる。
ボア×ストロークは95.0mm×67.0mmで排気量は2850ccと、
普通の911よりも小さいが、これはホモロゲーションによる。2850cc+ターボなら、最低重量を1100kg以下に収められる。

最高出力450PS/6500rpm、最大トルクを51.0kgm/5500rpm発揮。最高速度は324km/hと発表されたが、
後に317km/hに改められた。とはいえ、他のスーパーカーとは違い、実際に出せる数字であることには間違いない。
事実、1987年に「ロード&トラック」誌が行ったテストで、317km/hを記録した。
ミッションは6速MTだが、
1速はG(ゲレンデ)と表示されており、泥などのスタックからの脱出用。シンクロはポルシェではなく、
ボルグワーナー・シンクロが採用されている。駆動方式は湿式多版クラッチによるフルタイム4WDで、トルク配分は
コンピュータ制御で無段階にコントロールされる。この配分は任意に4つのプログラムを選択することが可能。
「ドライ」が標準で、前輪に40%のトルクが配分されるが、加速時などには20%になるなど、コンピュータで自動制御される。
「ウェット」で前輪に40%、「スノー」では前輪に50%のトルクが配分され、「トラクション」は泥などのスタックから
脱出するときの非常用となっている。切り換えレバーは、ステアリングコラムにあるワイパースイッチの後ろにある。

サスペンションは、前後ともダブルウイッシュボーン+コイルを採用。ダンパーはビルシュタイン製で、オートモードにすると
自動的に減衰力が調整されるほか、コンソールのスイッチで「ハード」か「ソフト」を選択することもできる。
各輪2本ずつ配されているが、コンフォートでは1本が車高調整用に、スポーツは2本とも減衰用となっている。
車高自動調整機能が装備されており150mmが標準で、150km/hを超えると120mmに車高が下がる。
手動で180mmに上げることもできるので、段差のある場所を通過する際に活躍する。ビルシュタイン製のダンパーは、
オートモードにすると自動的に減衰力が調整されるほか、コンソールのスイッチで「ハード」か「ソフト」を選択することもできる。
ブレーキは、前後のディスク径が開発段階よりも大型化されたベンチレーテッド・ディスクを採用。キャリパーは
ブレンボ製の4ポットで、956と同じ軽合金でできており、新開発のワブコ製ABSも標準装備される。ホイールはポルシェと
ダンロップで共同開発したもので、リムまで中空のマグネシウム合金でできている。エア減圧警告装置が組み込まれており、
インパネにある警告灯が点灯するとともに、アラームが鳴る。タイヤは当初ダンロップの予定だったが、量産前に
320km/hの巡航に耐えられるブリヂストンのポテンザRE71に変更された。ただし、通常の市販品とは異なり、
前後で内部構造が変えられるなど、959専用のものとなっており、マニュアルで6000kmごとの交換が推奨されている。
スペアタイヤは搭載されていないが、タイヤとホイールにダンロップが特許を持っているデンロックシステムが採用されている。
万一パンクしても、タイヤがホイールから外れることはなく、80km/hで200kmの距離を走行することが可能。

室内は、センターコンソールにダンパーの減衰力可変スイッチとハイトコントロールのスイッチが配される以外は、
基本的に911と変わらない。ドアもアウターパネルは特殊アルミニウム合金だが、ドアノブとインナーパネルは911と同じ。
ステアリングはパワー・アシスト付きで、メーターのレイアウトは911ターボとほぼ共通。
左から燃料計/水温計、油温計/油圧計、タコメーター/ブースト計、340km/hまでまでのスピードメーター、
リアデフ・ロック率/フロント・トルク配分メーターとなっている。4WDモードの切り替えレバーはワイパーレバーの後ろにあり、
エアコンの操作パネルは944のものと共通。シートはスポーティなバケットタイプで、高さや角度を調整できるほか、
電気ヒーターも備わっている。意外だが、リヤシートも備わっており、短時間なら大人でも座っていられる。

1985年のパリ・ダカール・ラリーに、3台が出場。ただし、エンジンはカレラ3.2のノンターボの空冷で、1台も完走することができなかった。
1986年も、3台が出場。入手できるガソリンの質や耐久性を考慮して、380PSにデチューンされたが、
レネ・メトジェ/ドミニク・ルモイヌ組が総合優勝、ジャッキー・イクス/クロード・ブラッスルー組が2位、他の1台も6位に入賞した。
実際に生産が始まったのは、WRCのグループBが終了した1987年になってから。ホモロゲーション取得用に開発されたが、
グループBの終了により、途中から高性能ロードカーへと方向変換された。200台限定の予定だったが、
顧客からのリクエストが多く、最終的に283台が生産された。
この中には30台のプロトタイプも含まれる。バリエーションとして、
コンフォートとスポーツの2種類がある。スポーツは車高自動調整装置、エアコン、パワーシート、パワーウインドウ、
集中ロック、レザートリム、電動ドアミラーが標準装備されている。コンフォートはそれらが省かれ、
シートは本革張りのバケットタイプに変更。カタログ上では30kgだが、実際には100kg近く軽量化されている。このバケットシートは、
レカロ社がレース用に開発したもので、ケブラーによるワンピース・モノコック構造を持ち、ドライバーの肩までホールドする。

日本には、当時の輸入代理店の三和自動車によって、コンフォート5台、スポーツ1台の6台が正規輸入された。
しかし、特殊なクルマなので、934ターボやカップカーと同じく、ポルシェAGから直接ユーザーに販売するという形がとられた。
そのため、保証はつかず、車検証上では型式不明と記載されている。トラブルなどがあった場合は、ポルシェ本社へ送り返さなくてはならない。
当時の日本はバブル期であり、この959も投機対象となり、並行輸入1号車が1億2000万円、最高で2億円の値がついたこともあった。
アメリカ・ポルシェから触媒付きの特別仕様100台のオーダーがあったが、さまざまな規制によりアメリカには正式輸出されなかった。

なお、ボルグワーナー・シンクロが911の1987年モデルに採用されたのに続き、サスペンションのコイルスプリング、
パワーステアリング、フルオートエアコン、17インチタイヤは964、6速ギヤボックス、ヘッドライトのデザインが993、
ツインターボ+4WDが996ターボに採用されるなど、後のモデルに多くのテクノロジーが受け継がれている。




ライトとウインカーは959専用。

ボンネット左上にある給油口

ミラーはエアロタイプで、電動式。

リアフェンダー前にあるインテーク

フロントバンパー左右にあるダクト

リアバンパー左右にあるダクト

タイヤはブリヂストンのRE71

フードに接着されているRスポイラー

■Specification
コンフォート スポーツ
発表年 1983
生産年 1987
生産台数 283
シャシー 鋼板モノコック
全長×全幅×全高(mm) 4260×1840×1280
ホイールベース(mm) 2272
トレッド前後(mm) 1504/1550
車両総重量(kg) 1540 1510
エンジン 水冷水平対向6気筒DOHC+ツインターボ
ボア×ストローク(mm) 95.0×67.0
総排気量(cc) 2850
燃料供給 ボッシュ・モトロニック
圧縮比 8.3
最高出力(PS/rpm) 450/6500
最大トルク(kgm/rpm) 51.0/5500
エンジン搭載位置 リア縦置き
駆動方式 フルタイム4WD
トランスミッション 6速MT
変速比 1速
      2速
      3速
      4速
      5速
      6速
      後退
最終減速比
3.500
2.059
1.409
1.036
0.813
0.639
2.860
4.125

0→100km/h加速(秒) 3.9 -
0→200km/h加速(秒) 14.3 -
最高速度(km/h) 317 -
ステアリング ラック&ピニオン
サスペンション 前後ダブルウィッシュボーン+コイル
ブレーキ 前後ベンチレーテッド・ディスク
ホイール 8J×17(F)、9J×17(R)
タイヤ 235/45VR17(F)、255/40VR17(R)  235/45VR17(F)、270/40VR17(R)
乗員定員(名) 2+2

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